第57章 迷い
キリ(……これは叶わないもの)
一番の問題なのが、そう思っているはずなのに、シカマルの優しい視線とその態度に、心のどこかで根拠のない期待を持ってしまうことだ。
キリ「はぁ……」
シカマルへの恋心を断つことが、想像以上に困難で、戸惑いを隠せない。
生きる事はあんなにもすぐに手放す事が出来たのに、恋心というものはなんとも厄介で。
どれだけ決意を固めても、シカマルに会えば、すぐに感情は波を打つ。
そばにいれば、好きな所しか見えない。
キリ(きっと、離れた方がいい)
今は、近過ぎる。
そうでなければ、抱いた想いは成長するばかりで、到底いなくなりそうにない。
キリ「!」
そう思っていた矢先、近づいてくる気配に、キリは今日一番のため息をついた。
シカ「お、やっと見つけた。こんなとこで何やってんだよ?」
修練場に来ないから、随分探したと告げるシカマル。
キリ(あなたは、いつも……)
どうして、今。離れようとしたこのタイミングで。ここへ来てしまうのだろうか。
シカ「どうした? 修業すんだろ?」
キリ「ええ、でも」
「自分はもう少し後から行く」と、言おうとした時。
ぐっと、シカマルにその手が引かれる。
シカ「ほら、行こうぜ」
キリ「っ……!」
ぽっと頬が熱くなったのがわかる。
この手を振りほどいて、振り向いたシカマルに今の表情を見られる事の方が、問題だから。
だから……今は、この手を振りほどかないだけ。
キリ(手が、熱い)
募り続ける想いがあまりにも強過ぎて、こんな筈ではなかった結果に臆してる自分がいた。