第56章 それぞれの距離
キリ「……病院、また行くの?」
シカ「おー」
ポロリと出てしまった言葉と、当然というようなシカマルの返事に、キリの気持ちが絡まった。
もう、この気持ちをなくすと決めたのなら、何故そんな問い掛けをしたのか。
シカマルの自由だと思いながらも、どこかで嫌だと思ってしまう。
シカ「何も知らねぇままだと、何も出来ねぇからな」
キリ「……何の話?」
シカ「お前の事だよ。効果のある薬もあるかもしれねぇだろ」
キリ「!」
シカ「……もうぜってーあの時みてぇなヘマはしねぇ」
その【あの時】が、フミとの一件を指しているのがわかって、キリは痛い過去に少しだけ胸を詰まらせた。
シカ「俺も、気を付けるけどよ。キリ、お前も効かねぇからって、わかってんのにそのまま毒飲むなんて事すんなよな」
キリ「考慮するわ」
そう言えば、ベシッとおでこにデコピンされる。
シカ「考えるじゃねぇ、止めろ。その前に俺に言え。絶対俺が何とかすっからよ」
キリ「っ……」
真剣な眼差しに押されて、こくりと頷けば、よし。とシカマルは満足気に前を向く。
キリ(……どうしよう)
今のは、反則だろう。
嬉しい。
さっきまでは、またシカマルが病院に行く事を気持ちよく肯定出来なかったのに。
自分のために、行くのだと言われれば、一転して嬉しく思ってしまった。
封をすると決めたのに、一喜一憂してしまうこの矛盾が、苦しく感じた。
キリ(………)
トンッと、一歩だけ。
キリはシカマルから距離を置いて、歩く。
自分で作ったその距離が、寂しいなんてそんな気持ちには、気付かないフリをした。