第56章 それぞれの距離
ぱっと花を咲かせた医療員の姿が、胸に痛かった。
キリ(……早く、なくなればいい)
この気持ちが全部。
シカマルの事を特別に想う感情も、医療員の笑顔に痛くなるこの気持ちも、全部。
キリがそんな気持ちを抱えているのとは裏腹に、シカマルは少し不思議そうに首を傾げた。
シカ(なんでこいつが礼言うんだ?)
もとより、キリの検査時は出来るだけシカマルかシカク、ヨシノの誰かが付き添おうという事になっていた。
キリが、薬物に対しての耐性が非常に高い事は以前聞いたが、その度合いも対処法も自分たちは知らない。
シカ(いざキリが負傷した時に、どうすりゃいいかわかんねぇなんて真似はしたくねーしな)
以前起きた、キリ毒殺時のように、何もわからなくて慌てるなんて事はもう二度とないように。
…………………………
病院を出たキリとシカマルは、家までの帰路を歩く。
結局、シカマルはキリの荷物を返してはくれなくて。
キリの手にあるのは、入院時にシカマルがくれたお見舞いの花だけ。
ふわりと花の香りが風に乗って、キリの鼻をくすぐる。
キリ(良い香り……)
シカ「それ」
キリ「!」
シカ「それ良い匂いすんな」
そう言って、抱えている花に顔を近づかせたシカマルに、少しだけ跳ねてしまった心臓が恨めしい。
キリ「ええ、いつもありがとう」
シカ「おう」
にっと口角をあげたシカマルに、きゅっと胸の奥が掴まれる。