第55章 カカシ相談室
病院までの道中、キリとは他愛のない話をするだけに留まった。
最後に、大丈夫だからそんなに心配しないでくれと、申し訳なさそうに微笑んだキリに、カカシは曖昧な返答しか出来ず。
その後、華麗な身のこなしで、軽やかに病院の壁をトントン登っていったキリの後ろ姿を見送るしかなかった。
窓から病室に戻り、振り向いたキリがカカシに頭を下げる。
カカシが目を細め、手を振って応えると、しばらくして病室の窓とカーテンは閉じられた。
カカシ「……っ」
それを確認してから、カカシは眉間の辺りに手を当てて天を仰ぐ。
【もし、もしも……奇跡が起きて、彼が私を選んでくれたとしても】
ためらいながらそう言ったキリの言葉。
それは奇跡なんかじゃないんだよ、そう教えてあげたかった。
シカマルは、ちゃんとキリの本質を見て、想いを募らせている。キリとシカマルの優しくて温かな気持ちは、確かに通じ合っているのに。
どうしてこうなってしまったのか。
だが、少し言い訳をさせて欲しい。
だってそうだろう。誰が、あの流れで身を引く決断をすると、予期出来る。
キリの望む、飾らない気持ちはシカマル一心に注がれると思っていた。
カカシ「自分の幸せじゃなくて、シカマルの幸せ」
それが刺客が潜むキリの望んだ答え。
カカシ「まさかそう来るなんて思わないでしょーよ」
キリの前世は何か。聖母か何かだったのだろうか。
あの歳で、その決断を下したキリの歩んできた道のりが決して優しいものではなかったこと。それが、痛いほどに伝わった。
そして。
カカシ「もしかしなくてもこれって……」
キリとシカマルの後押しをするはずだったが、カカシはキリの気持ちを押し潰す手伝いをしたのではないか。
カカシ「俺のせい……?」
どう考えてもそうだとしか思えなくて、カカシは両手で顔を押さえて、更に天を仰いだ。
カカシ「あー……嘘でしょ」
こんなにも二人の事を応援していたのに、どうか嘘だと言ってくれ。
シカマルに謝っても謝りきれない思いを胸に、カカシはとぼとぼと帰路に着いた。