第54章 好きな人
カカシはキリの手を見つめる。真っ白な肌と細い指に似つかわしくない程に、マメで分厚く、硬くなった手のひら。
そして、その腕にも生傷は絶えない。
昨日今日ついたものではない、年季の入ったそれは一体いつのものだろうか。
どれほど、普段から自分に、厳しく修業を行っているのかがよくわかる。
カカシ「こんなにボロボロになるまで、キリは何のために強くなりたいの?」
それは、ふと頭に感じた疑問。
誰々よりも強い、などそんな順位や名誉にまるで興味を示さないキリが、決して女の子の手とは言えなくなるまで、強さを求める理由はなんなのか。
キリ「……失わないためです」
カカシ「!」
その答えに、カカシは眉を下げた。
確かに、戦場では強さがモノを言う。
誰かを守り切るには、自身が強くなくてはならない。
失わない強さが欲しいのだろう。
カカシ(強さにも、人それぞれだね)
ナルトはみんなに認められる強さを。
サスケは復讐を可能にする強さを。
キリは仲間を守り抜く強さを。
下忍の中でも、誰よりもひたむきに強さを求める三人のその根底。
カカシ「優しいね、キリは」
三人の中でも、一番の優しさをもったキリの理由。
自分のためではなく、人のために強くなる事を目指すキリ。
カカシ「はぁ……ほんと。出来るならそのキリが持ってるもの、俺が代わりに背負ってあげたいところなんだけどね」
それなら、キリはもっと普通に恋をして、気兼ねなく仲間と共に笑って生きていけたのだろう。
そんな人生が似合う子なのに、天はどうして過酷な運命を与えたのか。
こんなにも優しい女の子が、同胞殺しだと言われ疎まれ、故郷を逃げ出さなくてはならなかった事実が酷く悲しかった。
キリ「……あげません」
カカシ「?」
キリ「〈これ〉は私がした事です。私が自分で背負います」