第54章 好きな人
キリ「カカシさん……ごめんなさい」
口に出すつもりはなかったとはいえ、人を殺めたのかなんて、そんな事をおいそれと聞いていいわけがないだろう。
さらに、カカシは木ノ葉隠れの上忍という立場である。
そういった経験があっても、なんら不思議はない。むしろ、任務内容的にも、避けては通れないのではないだろうか。
そんなカカシに、心の何処かで、同意して欲しかったから出てきたこの言葉。
同意を得て、共感してもらって。仲間を見つけることで、少しでも自分を守ろうとした。
そんな自己中心的で、浅ましいキリの言葉のせいで、カカシに辛い過去を話させてしまった事に、心が痛んで酷く後悔を覚える。
カカシ「なんで謝るの。ほら、手開いて」
そう言われて初めて、キリはぐっと力を入れて握っていた手が、白くなっている事に気が付いた。
キリ「………」
パッとその開いた手は、いつもどこか薄汚れているように見えた。
目を凝らせば、ぼんやりとそこに鮮血までもが蘇ってみせる。
カカシ「んー?」
そんなキリの思想に気付いたのか、カカシはきゅっとキリの手を包み込むようにして、まじまじと手を見つめる。
カカシ「どれどれ」
キリ「……?」
じっと手を見つめるカカシを、キリが見上げれば、ふわりと笑顔を落とされた。
カカシ「大丈夫、綺麗な手だよ」
キリ「……っ」
カカシ「苦労を乗り越えてきた綺麗な手だ」