第54章 好きな人

普段はやる気の見えない無気力そうなあのシカマルも、真っ直ぐな心を持っている。

誠実でもあり、里の仲間や家族を大切しているシカマルが、キリにはまた綺麗に見えるのだろう。


だから、それを目の前にすると、自信がないのだ。

自分なんかがそれを望んでいいのかと。言いようのない不安が体を包んで、身動きが取れなくなってしまう。


カカシ「……俺もね中々酷いよ。同じ班員の仲間を見捨てて、もう一人はこの手で刺した」

キリ「！」


カカシ「そんな俺が今も……生きてしまってる」

カカシはそう言って、少し悲しそうに笑った。


カカシ「だから、俺は幸せにならない方がいい。そんな贅沢な事、望んじゃ駄目だよねぇ」

キリ「っ、そんなっ！ そんなことありません」


カカシ「……」

ちらりとキリを見れば、ぎゅっと眉を下げてキリは首を振った。


キリ「カカシさんは、素敵な人です。だから、そんな……そんな悲しい事を言わないで下さい。私はカカシさんにも幸せになって欲しい」

泣きそうな顔でそう願ってくれるキリに、カカシはにっこりと笑顔を見せた。


カカシ「俺も、キリに同じ事を思ってるよ」

キリ「！」


カカシ「キリが俺にそう思ってくれたみたいに、俺もキリに幸せになって欲しいって思うよ」

「それに、俺は良くてキリは駄目なんてのもおかしいでしょうよ」と、カカシは目を細める。


キリ「……っ」

そんなカカシの言葉が、キリの心に優しく刺さる。