第54章 好きな人
キリ(………)
じっとキリも自分の足もとを見つめて、小さなため息をついた。
それはそうだ。
病室の窓から後先も考えずに飛び降りたのだから、そもそも靴を履くという概念すら今の今まで忘れていた。
カカシ「で、キリが裸足で飛び出しちゃうぐらいの〈何〉があったの?」
「ほらほらお兄さんに相談してみなさい」と、あえて軽くつとめてはみたが、どうやら事態は深刻らしい。
ポンッと、カカシはキリの頭を優しくなでる。
泣きそうな顔で首を振るキリに、カカシは困ったように眉を下げて微笑んだ。
カカシ「そんなに一人で抱え込まないで、誰かに話した方が楽になる事もあるよ」
「あれだったら、こっそりシカクを呼んで来てあげようか」と言えば、キリはゆっくりと首を振った。
キリ「カカシさんは、どうしてこんなところに?」
カカシ「んー? 本部で仕事してたら、窓からキリの姿が見えたから」
キリ「え、と……それは抜けて来たということですか?」
そんな事をして大丈夫なのか、早く戻った方がいいのではと。頭の中が透けて見えるキリに、カカシは軽快に笑った。
カカシ「大丈夫大丈夫。今頃、熊さんが代わりにやってくれてるから」
それはもう不機嫌そうに眉を寄せて、盛大に煙草をふかしながら、作業をしている事だろう。
ただ窓からカカシとキリの姿を見て、何かしら悟ってくれてはいるはずだ。そう信じたい。
キリ「?」
キリ(くまさん……??)
今度アスマに上等な酒を持って行こう。殴られる前に。
カカシはそう心に決めて、キリに視線を戻す。
カカシ「キリは人の心配してる場合じゃないでしょーよ」
「いい加減話しなさい」と、キリに促せば、キリはぽつりぽつりとその心情を語り始めた。