第54章 好きな人
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とっぷりと日も落ちて、キリは窓から夜空を見上げる。
どんよりと曇っていて星一つ見えない空。まるで今のキリの心を映しているのだろうかと思った。
ぐちゃぐちゃになって行く気持ちに、たまらなくなって、キリは窓を開ける。
3階にある病室だが、キリにはまるで問題ない。
病室から逃げるように、キリは窓枠に足をかけて、迷いなく飛び降りる。
トンッと着地をしたキリは、先ほどまでいた病室を見上げる。
キリ(………)
ただ、病院から少し離れただけなのに、少し息がしやすくなったのは気のせいではないらしい。
しかしながら。
このまま、どこへ行けばいいのか。
キリ(ヒナタ……)
日向家へ、と真っ先にヒナタの姿が思い浮かんだが、彼女は今長期任務で里を離れている事を思い出す。
シカマルがいる奈良家へ行ったところで、落ち着けるとも思わない。
むしろ、状況は今より悪化する可能性がある。
キリ(アパート……も駄目ね)
借りているアパートの鍵も、奈良家にある。
こっそりと取りに行く前に、シカクやシカマルに見つかるのがオチだろう。
キリ(………)
はぁ、と大きく息をついて、キリはあてもなく里内を散策する事にする。
見上げた空が、せめて満点の星空ならば少しは気分も晴れただろうに、どうにもそれは望めそうにない。