第54章 好きな人
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シカマルが帰った後。
花瓶を片手に病室へ戻った医療員が、少し寂しそうな表情を見せたことに、キリは複雑な気持ちになる。
そして、そんな気持ちを持ったまま始まった医療員とのお喋り。
他愛のない話しから、シカマルへの憧れと想いを嬉々として語るそれを、曖昧に頷き返す事しか出来なかった。
結局、その日もまた、満足に眠ることが出来なくて。
キリは、昨日よりも憂鬱な入院四日目の朝を迎える。
…………………………
昼を少し過ぎた頃、心なしかキリの顔色を窺うようにシカマルが一輪の花を手に、病室へと訪れた。
いつもはただ嬉しく受け取っていた花を、今日はすぐに花瓶に入れて、足早に花瓶の水を換えに行く。
ザバッと流しに水を捨てた時、大きくはねた水が、キリの衣服を濡らした。
キリ(……冷たい。私は、なにを……)
しているのだろうか。
ここ数日の自分は、本当におかしい。
そもそも、こんな風に慌てて水を換えて、どうするというのか。
また彼女が水を取り換えようとした時に、それはもう済ませたから大丈夫だと、白々しくそんな言葉を吐くつもりなのだろうか。
そんな事をしなくとも、善意でしてくれたそれに、ありがとうと、ただ一言礼を告げればいいだけの事。
なぜ、それが出来ないのか。
医療員は、シカマルが来ているからと、わざわざ病室へ来る事はなかった。
検診など本当に必要な時に訪れて、そこにシカマルがいれば本当に可愛らしく頬を染めて、ほんの少しシカマルと会話をすればすぐに病室を後にする。