第54章 好きな人
キリの普段とは異なる態度と、先ほどの言葉にシカマルはドキドキと鼓動を速める。
シカ(来ないでくれってのは……俺か? やっぱり俺のことか?)
だとすれば、何故。
もしかして、自分はキリに何かしてしまったのだろうか。
そう思い返してみても、心当たりはない。
シカ(なんだ? こんな朝っぱらから来たのがうざかったのか?)
そんな理由でキリが「もう来るな」と言うとは思い難いが、特別なにかをやらかしたような記憶もない。
シカ(いや、待てよ)
朝からご飯を食べていなかったし、顔色も少し良くないようだった。
具合でも悪いんじゃないだろうか。
話していた時には、そんな素振りもなかったので安心していたが、実はそうなのかもしれない。
チラリとキリを見て、再び、シカマルはキリから視線を移す。
シカ(……怖くて聞けねぇぇえ)
どうしてだと聞いて、もし〈自分〉を拒否されたのなら、確実にハートがブレイクしてしまう。
仕方がないだろう。それだけ唐突なのだ。今は心構えも何もない。
油断しまくっている際の防御無しでの拒絶など、それはもう抉られるようなダメージを受けること必須。
シカ(…………)
幸い、キリはもう一度それを言うことはない。
よし、このまま無かった事にしてしまおうと、シカマルはドキドキと小鳥のような心臓に手を当てて頷く。
シカ(そういや、もう昼になるな。ちっと長居し過ぎたか)
色々と話し続けて、気が付けば三時間近くが経過している。
見舞いと言うのは、適度な時間でお暇するのが常識だろう。
そう、常識だ。
決して、会いたくて離れがたくて、面会時間の終わりまで居座ろうとしていたわけではない。
常識だから、お暇するのだ。
シカ「じゃあキリ、俺もそろそろ帰るわ。またな」
そう、決して。自分の小鳥のようなメンタルを慮って、逃げ出すわけでは決して、決してない。
常識だから、そそくさと帰宅するのだ。