第54章 好きな人
キリ「あ……美味しい」
シカ「な。お、これもうめぇ」
ひょいひょいと病院食を口に放り込んでいくシカマルは、時折、それをキリの口にも運ぶ。
シカ「肉団子もう一個食うか?」
小さく一度首を振れば、シカマルはまた、美味いとこぼしながらそれを咀嚼する。
キリ(………)
気付いてしまった。
食欲がない事を察して、そうしてくれている彼の優しさに。
そんなシカマルに、きゅうっとキリの胸が痛くなる。
目の前にいるだけで、鬱々としていた気持ちが和らいで、ただ好きだという気持ちが溢れ出る。
キリ「ありがとう」
シカ「あ? 何がだよ」
「腹が減ってたからちょうど良かった」と、シカマルは病院食に手を伸ばす。
毎朝同じ時間に、しっかりと朝食を作ってくれるヨシノがいて、お腹が減っているわけがない。
キリ(……痛い)
そんなシカマルの優しい嘘が、胸に響いて痛かった。
* * *
厠へ行っていたキリが病室に戻り、ドアを開けようとした時。
中から、楽し気な会話が聞こえる。
キリ(……)
浮上しかけていた気持ちが、また沈んだ事に気付かないフリをして、キリは病室のドアを開けた。
キリ「!」
そこに見えたのは、シカマルが毎回見舞いにと持ってきてくれた桃色の花を抱えた医療員の姿がある。
キリの帰りに気付いた二人は「おかえり」と出迎えてくれたのに、キリの視線は花一点に注がれる。
『お水、替えてきますね』
「良い香りで本当に綺麗な花だ」と、医療員は笑顔を見せて、花瓶と今日新たにシカマルからもらった花を手に、病室を出ようとする。
キリ(それは……私が)
もらったものなのに、とそんな幼稚な考えが頭の中を巡る。