第54章 好きな人
『い、いえ! 朝食がまだだったので検診も時間を改めます。ど、どうぞゆっくりといらっしゃって頂ければ、うれっ嬉しいです』
シカ「……? よくわかんねーけど、入って大丈夫なんだな?」
『は、はい!!』
シカ「さんきゅ」
にっと笑って、キリの隣にある椅子に腰かけたシカマル。
その笑顔に真っ赤になってしまった医療員は、それを隠すように顔をおさえて、キリに頭を下げる。
『キリさん、具合が悪い時はすぐに呼んで下さい。わ、私は失礼しますね』
ぱたぱたと慌ただしく出て行った医療員。その姿を見つめるキリの気持ちは、陰を強めていく。
シカ「やっぱり変な女だな」
不可思議そうに彼女を見送るシカマルに、キリは眉を下げて微笑むしかなかった。
キリ「本当に、いつもはそうじゃないの」
シカ「本当かよ。まあキリがいいならいいけどよ」
キリ「ええ。彼女の腕は確かだわ」
シカマルが、好意を寄せた相手が、そこにいるから。普段の彼女はいなくなるだけ。
本来は的確な判断や丁寧な対応が出来る、優秀な医療員なのだ。
シカ「飯食わねーのか?」
食欲がないのかと、こちらを見つめるシカマルに、何故か後ろめたい気持ちになって、キリは無意識に視線を逸らした。
シカ「?」
シカ(病院の飯まずいのか?)
プスリと肉団子をさして、シカマルはそのまま箸を運んで咀嚼する。
シカ「あ、うめぇ」
冷めきってはいるが、良い味を出している。
ふかふかで真っ白な布団といい、この病院食といい、なかなかどうしてレベルが高いではないか。
シカ「ほら、うめぇぞ」
キリ「!」
「ん」と、箸を差し出すシカマルに、キリは思わず目を丸くする。
シカ「……んだよ、早く食ってくれねぇと俺が恥ずかしいだろうが」
そうして、少し照れくさそうに頬を染めたシカマルに、つい笑いがこみ上げてくる。
キリ「ふ……ふふっ」
シカ「……っ、ほら!」
早く口を開けろとばかりに急かすシカマルに、くすくすと笑いながら、キリは口を開いた。