第54章 好きな人
『すみません返事がなかったので、なにかあったのかと思い入室しました。……食事もされていませんが、具合が良くありませんか?』
心配そうにキリを見つめる彼女に、キリの胸にはずきずきと痛みが走った。
キリ「いえ、少し……考え事をしていただけ。ごめんなさい、すぐに食べるわ」
『大丈夫ですか? 顔色が良くないようですが……何かあれば些細なことでもいいので言って下さいね』
キリ(彼を……好きにならないで)
医療員の言葉に、そんな的はずれで馬鹿な考えが頭をよぎってしまって、すぐに自分を嫌悪した。
好きにならないでもなにも、キリになんの権限があるわけではない。
それに、彼女はもうとっくにシカマルに惹かれているのだ。
それも自分よりもずっとずっと前から。
きゅっと、また胸が苦しくなって、キリは顔をしかめる。
そんな中で響いた声が、いつもならば凄く嬉しいはずなのに、今はやめてくれと心から思ってしまった。
シカ「キリ、入るぞ」
『!』
キリ(……っ)
ガラリと開けられたドアから、シカマルが現れる。
『シ、シカマルさんっおはようございます』
シカ「? おう」
『っ!!』
シカマルからの返答に、彼女の周りがぱぁっときらめいたのがわかる。
そして彼女は少し頬を染めて、嬉しそうに口もとに微笑みを携えた。
そんな彼女とは対照的に、キリの痛みはどんどん酷くなって、それに同調するかのように心も沈んでいく。
シカ「あー悪い。まだ早かったか?」
まだ朝食中のキリと、何やら問診票を片手にキリのそばにいる医療員をチラリと見て、シカマルは思った。
シカ(やっぱもうちょい後にするべきだったか)
つい待ちきれなくて、面会時間ややフライング気味に訪れてしまったが、どうやらやり過ぎだったようだ。