第54章 好きな人
第54話 好きな人
早く明日が来ればいいと、時刻を確認しても、まだまだ病院の早い夕食が終わったばかりで明日は遠い。
いっこうに進んでくれない時間に、小さくため息をついた時、検診に訪れた医療員のノック音と可愛らしい声音が響く。
キリ「どうぞ」
『失礼します』
にこりと愛想の良い笑顔が向けられて、キリも彼女に微笑み返す。
『具合は良さそうですね。昼間の投薬から何か問題はありませんか? 身体に異常は?』
キリ「ないわ」
『そうですか、なるほど。毒薬が効かないとは伺っていましたが、睡眠薬や麻酔の類も効果が見られないのですね』
うーんと、手慣れた様子でカリカリと帳面に記していく医療員は、どうやらすっかりと普段通りで、キリは胸をなでおろす。
キリ「良かった」
『え?』
キリ「今日、少し様子がおかしかったから。何かあったのかと思って」
いや、もはやそれは少しどころではない。
いつもとは異なり過ぎる彼女が、気掛かりだった。
すると、医療員はポッと頬を桃色に染める。
『すみません。その節はお見苦しいところをお見せしました……』
はにかむようにそう言った彼女が、なんだかとても可愛らしくて、キリは微笑をもらす。
キリ「いえ、大丈夫ならいいの」
『その、あの時はシカマルさんが居て……驚いてしまって』
キリ「……? 彼とは知り合いだったの?」
シカマルの反応を見ると、彼は医療員の事を知らないようだったので、彼女からその名前が出た事に少々驚きを覚える。
『いえ、知り合いというより……向こうは覚えていなくて当然なのですが、今よりももっと小さな頃に会った事があります』