第53章 お見舞い
つい、抑えていた本音がぽろりと溢れてしまって、シカマルは慌てて口を開く。
シカ「あ、いやっほら親父と母ちゃんがキリがいねぇって寂しがってんだよ。親父なんて、もううぜぇぐらい萎えてっから、早く帰って来てくれ」
キリ(あ、ああ……そういう。……びっくりした)
シカクとヨシノがキリの帰りを待ってくれている。
とても嬉しい事なのに、どこか残念に思ってしまった自分がいた。
シカ「俺みてぇな可愛気のねぇ男よりも、キリが恋しいんだとよ」
わざとふてくされたようにそう言えば、キリは可笑しそうに目を細める。
キリ「ふふ、そんな事はないと思うけど」
とても穏やかで、あたたかな空気が二人を包む。
キリの柔らかな表情に後押しされて、シカマルはぽりぽりと頭をかきながら口を開いた。
シカ「あーまあ、お前の帰りを一番待ってんのは俺ーー」
『す、すみません!! 私、問診票を頂くのを忘れてしまいました』
突然バタンッとドアが開いて、先ほどの医療員が平謝りしながらキリのもとに歩み寄る。
シカ「…………」
…………………………
その後、面会時間ギリギリまでシカマルはキリと一緒に居てくれて。
「また明日も来る」と言って、帰っていった。
無理しなくていいと言えば「ばーか無理なんてしてねぇよ」と、気持ちの良い笑顔を返されて、不覚にも心臓が射止められてしまった。
きゅっと胸が痛くて、ぽかぽかとあたたかい。
シカマルを好きな事は、前々から分かっていたことだ。
だが、チョウジやいのから言われた事で、以前とは少し意識が違っている。
ただただシカマルに好意を抱いていただけだったのに、今では向こうの想いや、その先まで考えてしまうようになった。
しかしながら、ただそれだけで、こんなにも変わるものなのか。
波立つ感情が、抑えきれない。
キリ(明日……何時くらいに来るんだろう)
期待が胸に広がって、凄く楽しみで、でも少し落ち着かないような、そんな不思議な感覚に包まれる。