第53章 お見舞い
確かに昔は、他人と距離を置くキリの態度に、胸を痛めた事は何度もあった。
しかし、いつの間にか、そんな過去を笑い話に出来るほどに近くにいる。
キリの笑った顔が見たいという願いも、今は叶い。それはその時、願っていた以上に幸せな気持ちを与えてくれている。
責める事など一つもない。
大きな傷を背負っていたキリが、今は笑顔で隣にいるのだから。
体を起こして、ポンポンとキリの頭をなでれば、サラリとしたキリの髪が心地良い。
シカ「きれーな髪だよな」
キリ「そう? あなたも一緒でしょう」
シカ「ばか全然違ぇだろうが」
確かに、髪をほどけば、黒くて長い髪というのは同じかもしれないが、シカマルのそれとはまるで違う。
シカ「俺のはこんな細くねぇ」
シカマルの髪は、こんなに繊細なつくりをしていない。
そのまま、するすると少しひんやりしたキリの髪で手遊びを続けていれば、後ろから聞こえたノックの音に、シカマルはバッとキリから手を離した。
『失礼します。キリさん、今朝渡した問診票は書けま……』
最後まで言いきることなく、目を見開いている医療員に、キリは不思議そうにしながらも記入済みの問診票を手に取った。
キリ「書けてるわ……?」
じっとシカマルを見て、硬直してしまった医療員。
状況が読めないキリとシカマルは互いに顔を合わせるが、その答えはわからずに終わった。
キリ「大丈夫?」
シカ「どうかしたか?」
その声に、医療員はぴくりと反応を見せる。