第52章 ダブルレインボー
だが、考えれば考える程に、やっぱり。
いつもよりもハッキリとしないキリの喋り方と声音。
そしてキリの凛とした空気よりも、柔らかく見えるこの雰囲気。
シカ(やべぇ。今日……なんつーか、すげー可愛く見えんだけど)
全部が気のせいには思えない。
先ほど、キリは、抱きしめられた事を少し驚いただけだと言った。
シカ「そ、その嫌……じゃなかったか?」
キリ「嫌なわけな……あっ」
即答した後に、本当に小さくもらした声が、思わず本音をこぼしたような言い方で。どうにもシカマルの都合の良いように聞こえてしまう。
シカ「そ、そうか」
キリ「え、ええ」
シカ.キリ「…………」
そわそわと気まずい空気が二人を包んで、いつもなら気にもならない沈黙が、今日は何故だかひどく落ち着かなかった。
キリ「あ……任務」
シカ「あーそういや、そろそろだな」
キリのその言葉で、ふわりと夢心地だったものが、現実へと引き戻される。
家にいた時に準備を済ませてはいたので、間に合いはするが、そこまで時間に余裕があるわけではない。
シカ「……あー行きたくねぇ」
ぽろりと、つい本音が漏れる。
今日の任務はいわば雑用だ。
誰がやってもいい作業のために、今のキリとの時間を割かなくてはならないのが口惜しい。
キリ「大変な任務なの?」
シカ「いや、そういうわけじゃねぇけどよ。はー仕方ねぇ、家に戻るか」
「キリはどうする?」と、今後の予定を聞けば、キリは何かを考えるそぶりを見せた。
キリ(このまま残っても……集中出来そうにないわね)
先刻のように、修業に身が入らないなら、だらだらと続ける事に意味はないだろう。
キリ「私も戻るわ」
シカ(おっ、ラッキー)
どうやらあと少し、一緒に居られる時間があるらしい。