第52章 ダブルレインボー
シカ「キリ」
破裂してしまいそうな大きな鼓動も顧みず、ぐっとキリの肩をつかんで、シカマルは再び向かい合う。
シカ「っ………」
そこにあったのは、桃色の頬など何処へやら。
けろりとしたキリの表情を見て、シカマルはその場にしゃがみ込む。
キリ「……? どうかした?」
シカ(っ~くそ、さっきのは気のせいか!?)
いや、そんな筈はない。確かに見たのだ。しかし、ちらりとキリに視線を向けても、やはり飄々としたいつものキリの姿しかない。
シカ(………)
恥ずかしい。
ああ、恥ずかしい。
どうしてくれようか、このとてつもない羞恥。
キリの肩をつかんだシカマルの手は、小さく震える程に緊張していた。
要らぬ期待と緊張が募りに募った後の、この何もなかった反動が凄い。
シカ「あーくそっ」
キリ「??」
戸惑いを見せるキリに、シカマルは半ばやけくそな気持ちで立ち上がる。
シカ「いや、なんでもねー」
はぁっと、大きく息をつく。
すると冷静になった頭が、キリがシカマルに対して照れるなんて、そんな事があるわけがないと、現実的な答えをはじき出す。
シカ「悪かったな、急に抱きしめちまってよ」
きっと、キリは何も気にしてなどいないだろうが。と、内心自嘲しながら詫びれば、キリはぴくりと反応を見せた。
キリ「いえ、その……少し驚いただけ」
シカ(…………)
そう言うキリの表情が、どうにもいつもよりも違って見える。
シカ(おい待て、さっき失敗したばっかだろーが)
期待してはいけない。
それは物凄い反動で自分に返ってくるのだ。
すぐに跳ねてしまう自分の心臓が、恨めしい。