第52章 ダブルレインボー
第52話 ダブルレインボー
キリ「あ……っ」
森の中で、木を的にして投げたクナイは、狙いを外して、後ろの木の根元へと刺さる。
キリ「………」
ふーっと大きく息をついて、キリはクナイの回収に向かう。
どうにも今日は、集中力が散漫としていていけない。
今は修業に意識を向けなければ、修業をしている意味がない。そうは思っているのだが、どうしても昨日のやり取りが頭の中から離れてくれない。
先日、チョウジから言われた言葉。
【いのが、シカマルに流れ星を見に行こうって誘ってたら、シカマルは行ったと思うよ。でも、シカマルはいのを誘わなかった】
あの日の夜。
シカマルから、流星群の話を切り出され、キリはシカマルを誘ったのだが。
シカマルは、自分も今誘おうとしていたところだったと、そう言った。
それが本当なら、シカマルはわざわざキリを誘ってくれようとしていた事になる。
誘うつもりはなかったのに、そう言ったなんてことは。
キリ(そんな……変な嘘はつかないと……思う)
つく必要もなければ、意味もないだろう。
彼は、他の誰かではなく〈キリ〉を誘ってくれたのだろうか。
……〈キリ〉だから、誘ってくれたのだろうか。
キリ「……っ」
そう考えた時、ぼっとキリの顔が赤く染まる。
本当に、今までただの一度も。
キリはシカマルに好意を抱いてはいたが、反対にシカマルが自分の事を好いているなど、そんな考えを持ったことはなくて。
それどころが、シカマルと自分がどうこうなるという事すら、考えた事もなかった。
だって、キリは最近まで、生きていくつもりなどなかったから。
すぐ死ぬ未来に。そんな想いは、ただ邪魔になるだけで、溢れないようにと封をし続けていたのに。