第50章 呼ばない理由
そんな、そわそわと落ち着かない沈黙が少し続いて、キリはそこに小さく言葉を落とした。
キリ「いつも……そばにいた」
気付いたら、いつもシカマルはキリの隣にいた気がする。
いつからだったのだろうそれは、今では違和感も感じられない程に、近い存在になっていた。
キリ「どれだけ、酷い態度をとったのかも……何度突き放したかもわからない。でも、いつも、手を差し伸べてくれた」
ヒナタ「!」
いつも凛としていて、真っ直ぐに前を見ているキリ。
ヒナタと同期であるのに、どこか手の届かないようなそんな雰囲気すらまとっているキリが、今は俯きがちに言葉を紡いでいて。
ヒナタの目に初めて、キリが〈女の子〉に見えた。
キリ「こんなの好、きに……ならない理由を、教えてほしい……」
ヒナタ「っ……!」
視線を落として、手で顔を隠しながらそう言ったキリは耳まで朱に染まっていて、ヒナタの心臓までがどきどきと速さを増していく。
ヒナタ「い、いつからか……聞いてもいい?」
大切な友人が、こんなにも大切な事を教えてくれて、とても嬉しい反面。
ヒナタの中にある一つの大きな引っ掛かり。
キリ「……アカデミーの頃」
ヒナタ「!!」
小さな声で言ったキリの言葉が、嘘をついているようには、とても見えなかった。
だが、それでは以前、キリに聞いた話はなんだったというのだろうか。
ヒナタ「え……と、キリちゃん、あの……」
キリ「?」
よほど、恥ずかしいのだろう。
真っ赤な顔をしたキリの表情に、少しドキッと胸を打たれながら、ヒナタは困惑している頭の中をなんとか整理する。
ヒナタ「あの……樹の里の、好きな人は……?」
キリ「樹の里……??」
一体、何の話をしているのだろうと、首を傾げたキリに、ヒナタは続ける。
ヒナタ「その、イチカさんは……?」