第50章 呼ばない理由
キリは、正式に友人になれたあの日から、自分のことをヒナタと呼んでくれるようになった。
だが、シカマルに対しては、いつまでもその名を呼んでいるところを見たことがない。
ヒナタよりもずっと……何倍も一緒にいる時間は長かったのだろう。
シカマルとキリの様子を見ていれば、互いに大事に思っていることはよくわかる。
さらに二人の間には、確かな信頼感もみられるのに、どうしてなのだろうか。
ヒナタ「わたしは、キリちゃんにそう呼んでもらえて凄く嬉しかったから……シカマル君も名前で呼ばれた方が嬉しいんじゃないかな」
そう言って、ちらりとキリの顔を見たと時。
驚きのあまり、ヒナタの体はピタリと停止する。
ヒナタ「!!」
キリ「っ……、だって、今更……」
風に運ばれて、消えてしまいそうな声で言ったキリの頬が真っ赤に染まっていた。
キリ「どう呼べばいいのか……どの、タイミングで呼んだらいいのかも、わからなくて……」
もし嫌がられたらと思うと……と、珍しく口ごもるキリの物言いと、熱をともした表情が、何を意味するのか。
決して鋭い方ではないヒナタでも、すぐにわかってしまった。
ヒナタ「え、と……キリちゃん、は……もしかして。シカマル君のことが、好き……?」
キリ「!!!」
その言葉に、きゅっと口を結んだキリは、ゆっくりと……ほんのわずかに頷いた。
ヒナタ「!!」
さらに赤くなったキリにつられて、ヒナタの頬にも紅葉が散っていく。