第49章 父親
目前に到着したヒアシは、ヒナタに向けてこうべを垂らした。
それを見て、キリとネジもヒアシへの警戒を解いた事がわかる。
二人は互いに一度目を合わせると、親子の間から静かに身を引いた。
ヒアシ「……すまなかった」
その声は、ヒナタがかつて一度も聞いた事がないような、いつもの威厳のあるヒアシのそれではなかった。
顔を上げたヒアシの、思いつめた表情がヒナタの視界にうつる。
ヒアシ「お前には……これまで酷い言葉をかけた。お前の性質を戦闘において短所として捉え、叱責し、改める様に、そればかりを伝えてきた」
そればかりか……そう言葉を落としたヒアシの表情は影を見せる。
ヒアシ「そればかりか……お前を見限り、冷遇した自覚はある」
ヒナタ「っ……」
ヒアシ「これまで当主として、宗家を率いる者として生きてきた。その中でいつしか……犯していた過ちに気付く事が出来なかった」
ヒアシの胸にささった言葉たちが、頭の中に思い返される。
【当主、宗家、分家……ごちゃごちゃとうるさいわ。あなたは父親としてヒナタの事をどう思っていますか】
【てめぇ自分の子供にそんな事言わせるなんてどういうつもりだ。子供に否応なく押し付けるもんじゃねぇ。子供はあんたの私物じゃねぇんだ】
【同じ人物である事に変わりはないのに……ヒナタ様の父上だと思うだけで私怨も薄らいでいく気がします】
胸にささった言葉たちの中に〈当主〉に向けた言葉は一つだって有りはしなかった。
全て、一人の親相手に向けられたものだ。
そして、それと同時にヒザシとの最後の会話を思い出した。
「自分は当主ではなく、ただ兄を守るためにこの身を差し出すのだ」と告げたヒザシ。
ヒアシ(……っ、私はこれまでどれほど大切な事を忘れていたのか……)