第49章 父親
ヒアシ(私はこの日向家の……当主だ)
ヒナタ。自らの初めての愛娘。
高い能力があるわけではないが、心優しい子に成長した事は承知していた。
今よりもずっとヒナタが幼い頃。
ヒアシが病に倒れた時、幼いヒナタは一晩中ヒアシに付き添い、せっせと額に冷たい布をあて続けてくれたと、後で使用人から聞いた時には、胸があたたかくなった事をよく覚えている。
しかし、一人の父親である前に、ヒアシには守らねばならないものがある。
日向家当主、その下に一体どれだけの人間がいると思っているのか。
名門であり、木ノ葉にて最も強いと謳われる日向の家紋を背負っているのは他の誰でもないヒアシ自身だ。
優秀な後継を育てなければいけない。
誰からも認められる実力を持つ、日向の名に恥じない後継者を。
ヒアシ(そうでなければ……死んだヒザシに顔向け出来ぬ)
そんな後継者に、ヒナタはとても向いていなかった。
誰かを傷付ける事をためらうヒナタ。何より平和を好み、争いを避けるヒナタに、日向宗家の名は重く、ヒザシの才ある息子は日向を継ぐ事は叶わない。
分家であったために、父を亡くし、後継者にもなる事が出来ないネジがすぐそばにいて、どのようにして自分が娘を甘やかす事が出来ようか。
ヒアシ(……………)
そんな思いに顔を顰めていた時、道場に近付く一つの足音に気が付いた。
ネジ「ヒアシ様、失礼致します」
ヒアシ「その声……ネジか、入れ」
襖をあけたネジは、一度深々と頭を下げてから、道場の中へと入る。
「お前がここを訪れるなど珍しいな」と、ネジに告げれば、ネジはヒアシの前に膝をついた。
ネジ「突然の訪問をお詫び致します。ヒナタ様が家をお出でになるという話を耳にしました」