第49章 父親
ヒアシ「………」
怒気をはらんだシカクの言葉に、ヒアシが言葉を返すことは無かった。
そんなヒアシを見て、シカクは一度大きく息をついた。
シカク「……あんたが色々と抱えるもんがある事はなんとなくわかる。が、それは子供に否応なく押し付けるもんじゃねぇ。子供はあんたの私物じゃねぇんだ」
ヒアシ「お前に……何がわかる」
シカクは「詳しい事情なんてわかりゃしねぇよ」と眉をひそめる。
シカク「だが……ヒナタが今、どんな思いでいるのかはわかる」
ヒアシ「……」
シカク「子供が可愛くない親なんていねぇ。うちの愛想のない無気力息子にしたって可愛いもんだ。けどな……稀にそうじゃねぇ親もいる。もしあんたが本当にそうなら、その時は」
真っ直ぐにヒアシを見据えるシカクに、ヒアシのヒアシの心臓が無意識に嫌な音を立てた。
シカク「こっちは受け入れる準備は出来てるぜ」
「俺の話はそれだけだ」とそう言って、道場を出たシカクは、ゆっくりと帰路を歩く。
シカク(あとはあんたの出方次第だ、ヒアシさんよ)
………………………
道場に一人残されたヒアシは、自らが歩んで来た道のりに思いを馳せる。
幼いヒナタに、厳しくあたっていた自覚はある。
しかし。
ヒナタが物心つく前から宗家の娘として稽古は行ってはいたが、以前は今ほど厳たる環境にあったわけではない。
ヒアシ(ヒザシ……)
それが変わったのは、自分の弟が、日向ヒザシが。
自らの身代わりとなって、亡くなったあの時から。
ヒザシの判断と死によって、宗家の存続は保たれた。
そして、兄であるヒアシはヒザシの命の上に今ここに在る。