第48章 殴り込み
ヒナタへの中傷がそこかしこから聞こえてくる。
キリ(……っ)
ぐっとこぶしを握りしめたキリの体内で、まるで血液が沸いていくような熱がともった。
キリ「ヒナタは芯に強さを持っています。そして、この家の事もしっかりと想っています」
その言葉に、後ろにいた男が吹き出した。
『今、芯に強さをと言ったか? ヒナタ様のあのご自身に対する自信の無さ、そして引っ込み思案なあの言動。ヒアシ様の面前ではあるが……正直に申し上げると、あの性格ではあの実力である事も頷けるというものだ』
その次の瞬間。
派手な破壊音が道場に響き渡った。
キリ「……逆でしょう」
道場の床に拳を叩きつけたキリは、大きく息をつきながら、肩近くまで床に埋まった腕をずるりと抜いた。
キリ「最初から自分に自信のない人間がいるわけがないでしょう。今日に至るまでのあなた達が、そうさせた」
自信というものを、幼い子供相手に多勢無勢で根こそぎ奪い取っていったのだ。
きっと駄目だという考えを根本に植え付けられているヒナタは、まだ攻める隙があるのにも関わらず無意識に防御に回ってしまう事が多い。
それでは打たれる一方で〈戦えている〉感覚もしないだろう。
キリ「……こんな環境にいて、ヒナタがあんなにも真っ直ぐに育った奇跡に感謝するべきだわ」
心優しい彼女に、この場所は過酷過ぎる。
キリ「ヒナタが何を言われても傷付かないと思っているのなら……あなたに父親を名乗る資格はない」
『当主様に向かって……先程から無礼が過ぎるぞ』
「調子に乗るのもいい加減にしろ」と、門下生から殺気立った眼差しを当てられる。