第48章 殴り込み
『おい、お前も早く道場から出て行け』
キリの腕を掴もうとしたのは、まだキリとそう歳も変わらぬだろう若い男だった。その男の腹部に当て身を入れると、男はその衝撃でヒアシのもとへと崩れ込む。
ヒアシ「!」
片手で男を受け止めたヒアシから、さっきまでとは比べ物にならないほどに、圧のある視線を向けられる。
『も、申し訳ありません!すぐにこの女を外へーー』
ヒアシ「良い……私がやろう」
ヒアシの重量のある低い声が、シンとした道場に響く。
ヒアシ「三度目はない」
「躾が足りないようだな」と、構えたヒアシに、キリも戦闘体勢に入る。
キリ「!」
キリの顔を目掛けた一手目を腕をクロスにして防いだ。と思った直後、キリの腹部にヒアシの掌打がめり込んだ。
キリ「かはっ…!」
ダンッと背中から勢いよく地に打ち付けられて、キリの呼吸が止まる。
キリ「っ……はっ」
ヒアシ「居ね。小娘」
キリ「っ……、名をキリと言います。ヒナタの友人です」
腹を押さえながら立ち上がったキリに、ヒアシはぴくりと反応を示した。
キリ「今日の、ヒナタへの発言に何か思う事はありませんか」
真っ直ぐに、目を見据えて告げたキリに、ヒアシの眉間に皺が寄る。
ヒアシ「……小娘、居ね。今ならば見逃そう」
キリ「彼女が人一倍努力をしている事はご存知のはずです。ヒナタに何故あそこまーー」
ヒアシ「あやつは、日向の出来損ないだ」
キリ「!!」
ヒアシ「後に生まれたハナビにも劣り、日向を継ぐ才を持っていない。あやつは……この日向には要らぬ存在」
そう言い切ったヒアシの後ろでは、くすくすと小さな嘲笑の声が聞こえる。
『可哀想に。まぁあの実力じゃあな』
『私も以前、手合わせをした時は酷かったわ』
『あれが後継ぎなど、誰が認めようか』