第45章 獣的本能を持つ奴ら
『っ……』
キリの抜刀、そして斬り上げに、研ぎ師は、ぞくぞくと鳥肌が立っている自らの腕を押さえるようにして、口角を上げた。
『いやぁ、良い仕上がりだったからな。〈良い音〉を聞けるとは思っちゃいたが……まさか無音とはな』
「良いものを見せてもらった」と、研ぎ師は恍惚とした表情を見せる。
斬れ味のよい刀ほど、軽い音がするものだが、それでも無音というのは中々お目にかかれるものではない。
『まだ若いのに大したもんだ』
キリ「ありがとうございます。でも……」
「それは私だけの力ではない」と、キリは自らの刀に視線を向ける。
キリ「刀のキレが増していて、以前よりもずっと軽い」
シカ「へぇ、そんなに違うもんなのか?」
キリ「ええ。全然違うわ。……やっぱり、研ぎには定期的に出した方がいいみたい」
それはわかっているのだが、研ぎに出している間中、刀を手離してしまうことがどうしても気掛かりで、今までそれをするのを躊躇ってしまっていた。
キリ(でも……)
キリ「まさか、こんなに早く仕上げてもらえるとは思っていませんでした」
『おお、おかげ様で久しぶりに一日中刀漬けの毎日だったな』
キリ「!! 無理を言ってしまって、すみません……」
本来なら一ヶ月は要する研ぎを、わずか十日程で仕上げてくれた研ぎ師に、感謝と申し訳なさを感じてキリが頭を下げれば、その頭上には軽快な笑い声が響く。
『はっは、いやいやいいさ。良い仕事だった』
「やってるこっちも楽しかった」と、研ぎ師は口元に弧を描かせた。
『ま、礼だっつーんなら、また次の研ぎもここに持って来てくれよな』
「サービスするからよ」と言う研ぎ師の申し出をキリは有り難く受け取った。
キリ「是非。お願いします」