第45章 獣的本能を持つ奴ら
そして、すぐに戻って来た研ぎ師は刀をキリへと手渡した。
それを受け取ったキリはスルリと鞘から刀を抜いて、切っ先を天井へと向ける。
キリ「……綺麗」
よほど、腕の良い研ぎ師だったのだろう。惚れ惚れするような光沢が刃に宿っていた。
『いい刀だな。芯も強い。稀に見る名刀だ』
キリ「ありがとうございます。……両親が、私のために作ってくれたものです」
そんな研ぎ師の言葉に、キリは嬉しさを感じて胸を温かくさせていれば、研ぎ師は更に言葉を続けた。
『刀もそうだが、お嬢ちゃん。あんたも中々の腕前なんだろう。刃に歪みもこぼれも無い。使い手の腕が良い証拠だ』
それに、刀を見れば普段どんな扱いをしているのかもすぐにわかった。それだけ大切にされてちゃ、刀も喜んでいるだろうと、研ぎ師の幾分優しくなった声が響く。
キリ「ありがとうございます」
『どうだ?試し切りしてみるか?』
キリ「是非」
すると、研ぎ師は奥から巻藁を持って、それをキリの目前へと置いた。
それを見てキリは、一度刀を鞘に戻して、巻藁に向かって構える。
『……いい動きだ』
一呼吸。
すっと息を吸い込んだキリは、半歩前に踏み込むと同時に、巻藁を斬り上げる。
トンッ
少しの時差を生じた後、巻藁の上部分が地面へと落下した。
シカ「……は? 今いつ切ったんだよ。音、したか……?」
目の前で見ていたはずなのに、いつ巻藁に刀が入ったのかがわからず、不思議な感覚に陥る。