第44章 敗北
キリ「……もともと、大きな怪我はないから」
どこかが折れたり、中で切れたりといった大怪我はしていないと、キリは小さく答える。
シカ「そうか」
キリ「……ええ」
シカ「で、何があったんだよ?」
キリ「………な」
シカ「言っとくけどな。なんでもない、大丈夫、そんな言葉を聞きたいわけじゃねぇからな」
そう言えば、押し黙ってしまったキリに、シカマルは小さく息をついて、後ろにいるキリにもたれかかるようにして体重をかける。
シカ「言いたくねぇか?」
キリ「…………悔し、くて…」
シカ「……手、あんま力入れて握んなよ」
「見てるこっちが痛ぇ」と言えば、キリの体の力が少しだけ抜けたのを、背中越しに感じる。
シカ「相手、結構いたのか?」
キリ「っ……」
その言葉に、キリは首を横に振った。
キリ「そうじゃない。一人しか、いない」
もし複数の相手がいたのなら、まだ良かった。
それならばまだ少しは言いようがあったかもしれないが、今回ばかりはそうではない。
キリ「相手も一人で……体術で、負けた」
シカ「向こうは上忍か何かか?」
キリ「いえ……下忍で、一つ上だと言ってたわ」
シカ「は!? まじかよ?」
あのキリが、一つ上だとは言っても、同世代を相手にして、体術で負けるなんてことがあるのか。
シカ「なんか卑怯な手とか使われたんじゃねーのか?」
キリ「されてないわ。そんな……そんな人じゃない」
ロック・リー。今日初めて出会った人物ではあるが、おそらく彼は卑怯な事をするような、そういった類の人間ではない。
真っ向勝負を望み、何度まともに攻撃をもらったとしても立ち上がる。
その姿は、むしろとても好感のもてる人物だった。