第43章 失敗
そいつの事を知っているわけではないのに、キリの好きが軽いものだとは思えなかった。
むしろ考えれば考えるほどに、こんなにも仲間を、人を大切にするキリが、適当な気持ちで誰かを好きになるわけがないという確信めいたものまで出てくる。
シカ(俺に、しとけよ……っ)
こんなにもそばにいるのに。
あと少しで触れてしまいそうなほど。今、肩を並べているのは自分なのに。
伝えられない想いばかりが募っていく。
ずきずきと痛むこの胸の痛みを、キリも樹の里の想い人に向けているのだと思えば、心臓のあたりが痛くてたまらなかった。
シカ(……キリ)
すると、くるりとこちらを見たキリに、自分の鼓動がはねたのを感じる。
シカ「っ、わりぃ、声に出てたか?」
キリ「少し忍服も見ても大丈夫?」
綺麗に重なった言葉に、二人はぴたりと歩みを止めて顔をあわせる。
シカ.キリ「………え?」
キリ「声に……?」
「何を?」と、疑問符を浮かべるキリに、ボッとシカマルの顔が赤く染まる。
シカ「っ、なんでもねぇ」
「頼むから気にしないでくれ」と、キリから顔を背けてそう言えば、キリは不思議そうな顔をしながらもそれ以上追求してくることはなくて、その優しさに救われる。
そして、二人は再び、触れそうで触れない距離を保って歩き始めた。