第11章 上忍様のひと声で
しばらくして、ずいぶんと立派な家へとたどり着いた。
キリ(……広い)
「奈良」と書かれた表札。家は和風の作りで、縁側や庭なんかもある。
キリはシカクに手を引かれるまま、家の門をくぐった。
シカク「キリ、こっちだ」
もう色々と諦めて、大人しく後をついていけば、見覚えのある鹿を見つけた。
キリ「あっ」
シカク「お前が助けたあの鹿だ」
お腹に包帯が巻かれた子鹿も、キリに気がついて立ち上がり、こちらに歩み寄って来る。
シカク「完治までにはまだ時間がかかるが、順調に回復してきている。命の危険はない。キリ、お前のおかげだ。改めて礼を言わせてくれ」
怪我の処置も適切だったとシカクが言うと、子鹿はキリに頭をすりすりとすり寄せてきた。
シカク「お前が保護してなけりゃ、俺たちが見つけた頃にはもう息を引き取っていただろうな。お前が救った命だ」
キリ(……元気そうで良かった)
いくつもの命を奪った私が救った小さな命。
シカクはそんなつもりで言ったのではないだろう。それに、キリが奪った人生が、その人に返って来ることはない。
しかし、無垢な子鹿を見ていると、キリが生きていたことで、ほんの少し何かの役に立てたのだろうかと思ってしまう。
愛らしい瞳を向けてくる子鹿の頭をなでれば、気持ち良さそうに目を細めた。
ガラッ
ドアが開く音がして、シカクは玄関の方へ視線を向ける。
シカク「おっ、ちょうどシカマルも帰ったみたいだな」