第40章 はじめての
そんなキリと鹿を見ていてしばらく。
先に動きを止めたのはキリの方だった。
キリ「そろそろ行かないと」
いい加減シカクも戻ってくる頃だろうと、そっと鹿をなでれば、名残惜しむように頭を寄せた鹿も、川べりに戻ってくる。
シカ「また来るからな」
キリ「またね」
そうして、群れのそばまで鹿を送り届け、仲間の中に入っていった鹿を見て、シカマルたちも森を後にする。
二人での帰り道、シカマルは今日ずっと感じていた事を口にする。
シカ「なぁ、キリ」
キリ「? はい」
シカ「お前さ、あいつに会いたい時は言って来いよな」
鹿の住む森は奈良家の私有地であるため、キリ一人で中に入る事は出来ない。
キリを信用していないだとか、そういう話ではなく、掟であり決まりなのだ。
古くから縁の深い秋道家、山中家であってもそれは同様で、この決まりに例外はない。
そのため、シカマルやシカク、ヨシノも時間がある時は、こうしてキリに声をかけるようにしているが、キリはもっと会いたいと思っているのではないだろうか。
実際、誰がいつ声をかけても、キリが鹿のところへ行くのを断ったことは一度もない。
シカ「お前、俺たちに遠慮して、自分から言ってこねぇだろ。ほんとはもっと会いたいんじゃねーのか?」
キリ「……でも、こうして会えているから」
だから充分だと言うキリに、シカマルはため息をもらす。
シカクやヨシノの話では、二人がキリを連れていった時には、長く滞在する事はないらしい。たわむれるのもそこそこに、すぐに帰宅をしてしまうのだと、少し寂しそうに言っていた。
その点、シカマルの場合は、長時間でも遊び続ける分、まだシカマルに対して遠慮は少ないのだろうと思うと嬉しくもあるが。