第40章 はじめての
シカ「あー! お前もそろそろどけ」
『きゅ』
そうして、いまだ上にいる鹿をどけようとすれば、それを嫌がるように鹿は更に体を寄せてくる。
シカ「きゅーじゃねえよ、ほら」
そんな戦いを繰り広げていれば、くすくすと柔らかな声が聞こえてきて、シカマルが視線をキリに戻せば、そこには穏やかに笑っているキリがいる。
シカ「~~っ!」
キリ「!!」
ぎゅっとキリを抱き寄せれば、腕の中におさまったキリからは、小さな驚嘆の声が上がった。
キリ「……ど、うしたの?」
シカ「お前の笑った顏、はじめて見た」
キリ「!」
ぎゅっと、さらに力を込めれば、キリのあたたかさを感じる。
シカ(やべぇ……っ)
ずっと見たいと思っていたキリの笑顔。
胸の中には、嬉しさや愛しさ、そして安堵。
今までのキリを思い出して、様々な気持ちが入り混じり、なぜだか……少し、涙が出そうになった。
……………………………
そのあと、二人の間にはしばらく、ぎこちない空気が流れたが、無邪気な鹿のフォローによって、すぐ普段通りに過ごす事が出来た。
それから数時間。
息を切らしたシカマルは、川べりに座り込んだ。
シカ「だー、もう無理だ」
ぜぇぜぇと乱れる息を整えているシカマルの前では、ばっしゃばっしゃと浅瀬を駆け回る鹿とキリの姿。
シカ(タフ過ぎんだろ)
もうかれこれ数時間に渡って、ノンストップで駆け続けている二人に、つい苦笑する。