第40章 はじめての
もうキリが屈まなくても、顔を寄せられるほどに大きくなった鹿は、立派な大人の体格になっている。
そんな体格と相反して、声は高いままで、どこか幼さを感じる丸い瞳が、子鹿であった頃の面影を残していた。
シカ「お前な、危ねーだろうが」
「もう少し落ち着いて近付いて来てくれ」と、シカマルも頭をなでれば、気持ち良さそうに目を閉じた鹿に、首をすくめて苦笑するしかなった。
鹿の気まぐれな道案内のままに、シカマルとキリは後をついて、森の中を歩く。
その途中で水の音に誘われ、喜々として川に飛び込んでいく鹿。
仕方ねぇなとシカマルも川へ入れば、戸惑っている様子でこちらを見ているキリに気付く。
シカ「入らねぇのか?」
水に濡れるのが嫌なのだろうかと不思議に思っていると、キリはためらいがちに言葉を落とす。
キリ「その、服をあまり汚すと……」
シカ(あーそういうことな)
少し言い難そうにしているキリの理由が、すぐに納得出来た。
びしょ濡れの状態で家に帰れば、ヨシノたちの迷惑になるのではと危惧しているのだろう。
シカ「キリ」
キリ「!!」
ぐっとキリの腕を引き寄せれば、その勢いで膝あたりまで浸かったキリの足。
それを見て、シカマルはにやりと笑みを浮かべた。
シカ「これで問題ねーな」
「もう一緒だ諦めろ」と言って笑えば、少しのあいだ呆然としていたキリは、それでもまた外に出ようとする。