第40章 はじめての
無意識に遅くなっていたシカマルの歩みに、振り返ったキリからは、優しさを含んだ視線が向けられる。
その優しさは、今から会う鹿に向けられているものかも知れないが、それを今、見ているのはシカマルだけで。
今……キリの喜びや嬉しさを共有しているのは、まぎれもなくシカマルで。
キリ「大丈夫?」
はじめの頃とはまるで違う、隣を歩くキリとの距離感に心があたたかくなっていくのがわかった。
シカ「悪い、すぐ行く」
…………………………
目まぐるしく、もはや戦場と化していた本部。
新たな書類が届けられたことに阿鼻叫喚していたが、ヨシノのおにぎり差し入れのおかげて、本部には束の間の休息が訪れた。
そして、無事に荷物の受け渡しを完了したシカマルとキリは森の中を歩く。
こうして、改めてキリを見ていると、キリはいつでも優秀な忍だった。
森の中を歩く動作一つとっても、合理的で無駄がない。
その姿は同じ忍として、見習うべきものなのだが……。
シカマルと二人でいる時ぐらいは、もっと肩の力を抜いてくれないだろうかと……そんな考えが頭によぎる。
キリが、良い意味で気を抜けるようになる日は来るのだろうか。
シカマルがそんな考えを巡らせていれば、向こうの方から、ドドドドドッと凄まじい足音が聞こえてくる。
キリ.シカ「!!」
シカ「うおっ危ねぇっ!!」
ものすごい勢いで突進してきたそれを何とか避ければ、キリは真正面からそれを受け止めて、止めきれない勢いに押され、数メートルほど後退する。
キリ「久しぶり。元気そうで良かった」
『きゅ』
キリ「また大きくなった」
そう言えば、ぴるぴると千切れんばかりに尻尾を振っている鹿は、キリに頭をすり寄せる。