第39章 交わされた約束
緊張から自然とキリの体に力が入る。
おそるおそるヒナタの反応を伺えば、先ほどから固まっているヒナタから答えは得られない。
キリ「あの約束は、もう……時効?」
少し悲しみを帯びたキリの声音にハッとして、ヒナタの止まっていた思考回路が動き始める。
ヒナタ「そ、そんなことない……!! あ、あの……」
ぶんぶんと首を振れば、上手く言葉になっていない言葉たちだけが現れた。
ヒナタ(は、早く何か言わなきゃ……!)
何て言えばいいのだろう。
今のこの気持ちを。
ありがとうと、ごめんなさいが交差するこの感情をどう表していいのかわからない自分の口下手さが嫌になる。
必死に言葉を探していれば「良かった……」と小さな声が聞こえてきて、ヒナタは顔を上げる。
キリ「よろしく、お願いします」
ヒナタ「っ!! こ、こちらこそ、よろしくお願いします……!」
深々と互いに頭を下げあっている中で、先にその頭を上げたのはヒナタの方だった。
ヒナタ「あのっキリちゃん……」
キリ「はい」
ヒナタ「わ、わたし、アカデミーの時のこと……!」
演習試合で怪我をした事など、本当は少しも気にしていないのだと、それを伝えなければと思って……続く言葉は喉もとで止まった。
ヒナタ(約、束……)
これを口にすれば……なくなってしまうのではないだろうか。
今、キリはアカデミーでヒナタが負傷した償いのために、約束を果たしにここへ来てくれているのだから。
こんな自分と友達になってくれたのだから。
ヒナタがそれを口にすれば、当然、この約束は破棄されるのだろう。