第39章 交わされた約束
ヒナタ「ぜ、全然……! その、来てくれて嬉しい……けど、ごめんなさい」
きゅっと胸の前で両手を合わせたヒナタは、視線を落とした。
ヒナタ「わたし、本当に落ちこぼれだから……せっかく来てくれたのに、さっきもごめんなさい」
部屋に来るまでも酷く言われたでしょう。と、ヒナタは辛そうな表情を見せる。
キリ「言われてないわ」
ヒナタ「え?」
キリ「何も。だから気にしないで」
ヒナタ「でも……」
キリのその返答に、ヒナタは戸惑いを見せる。
キリが、何も言われていないはずがなかった。
先ほど珍しくヒナタに客が訪ねて来ていると聞いて、その客人にはキリの名があがった。
ヒナタ(キリちゃん…!)
ヒナタの頭の中で、以前キリに会った際に半ば脅すようにして、キリに自分勝手な願いを口にした記憶が鮮明に蘇る。
さらに、そのままその場から逃げるように立ち去ってしまって、どうにかしなくてはと思ってはいたのだが……。
一体、キリにどんな顔で会えばいいのかと悩んでいる内に、どんどん時間が経ってしまって。それに伴って会い難さも増加していった。
そんなキリがヒナタを訪ねてきたとあって、あわあわと無意味にあたりを行ったり来たりを繰り返していれば。
キリ……そして、ヒナタの事を悪く言う屋敷のみんなの声が次々と耳に入る。
『あの子が訪ねているらしい。ほら、他里から来た化け物と呼ばれるあの……』
ヒナタ「!!」
〈化け物〉なんて心ない言葉。
屋敷の中にいるキリの耳にも……そう思って駆け出した。
その道中、そこかしこから聞こえてくるこの声に、キリが気付いていないとは思えない。