第37章 長所と短所
イチカ(キリ……)
イチカ「キリにね、お願いがあるの」
キリ「どうしたの?」
イチカ「……キリ、大好きよ」
キリ「イチカ……?」
イチカ「キリ……もう充分。これからは自分のために生きて」
キリ「!!」
イチカ「自分の人生を生きていいの」
そう言えば、視線を落としたキリの顔を、イチカは両手でそっと包んで持ち上げる。
イチカ「返事は? 言っとくけど、はい以外は認めないわよ?」
微笑みの裏で〈首を振るな、はいと言え〉そんな圧力をたっぷりとかけてくるイチカの強制的なお願い。
それでも、中々返事をしないキリにイチカはむっと頬を膨らませた。
イチカ「もしそのままだったら……知らないわよ、キリ」
キリ「?」
イチカ「泣くわよ。私が」
キリ「!」
イチカ「私の親友が、そんな風に自分を責め続けて生きてる。私は何も出来ない、なんて悲しい。悲しくて悲しくて……泣くわ。しかも、誰にも言わずに一人で」
キリ「っ!!」
イチカ「それでもいいの、キリ」
キリ「………凄く、嫌」
イチカ「じゃあ、約束ね」
イチカは、スッとキリの前に、小指を立てる。
その小指を見つめて、キリの動きは停止する。
イチカ「……私が泣いてもいいの?」
追撃のようにそう言えば、キリは迷いながら、戸惑いながらも動きを見せた。
キリ「………イチカには、敵わない」
困ったように眉を下げて、キリはイチカと小指を絡ませる。
イチカ「ふふっ、何年一緒にいると思ってるの?」
目の前で交わされたゆびきり。
イチカの非の打ち所がない流れに、シカマル親子は感嘆する。
シカ(すげーな、この女……)
シカク(ほぉーなるほどな。その手があったか)
一つ勉強になった親子と、完封されたキリは、満足げな圧倒的勝者イチカの姿が見えなくなるまで見送っていた。