第9章 空が綺麗だと感じた日
キリ「……鹿は、どうなったの」
シカ「あぁ、あいつはちょっと傷が深くてな、今は奈良家で治療中だ。森に返せるのはまだ先になるが、一応元気でやってる」
キリ「…そう」
シカ「お前が保護してくれてなかったら、あいつも危なかったかもしれねぇ。ありがとな」
キリ「……私は、気にしてない」
ひとしきり詫びたあとも、シカマルの表情は曇っている。
キリ「だから、そんなに気にしなくていい」
すでに多数の人から、散々色々なことを言われている。そして、そうなるように仕向けているのは自分でもあった。
自分自身、そのひとつひとつを気にしてなどいない。
だから、いつまでもすまなそうな顔をしているシカマルにそう言ったのだが、彼はまだ浮かない顔をしている。
キリ「本人が気にしていないことをあなたが気にしなくてもいい」
もう一度、そう言えば、シカマルは深くため息をついた。
シカ「わかった。さんきゅーな、キリ」
はー と肩の力が抜けたようで、シカマルはごろりと横になる。
それを見てキリが立ち上がれば、シカマルから寝転がったまま視線だけを向けられる。
シカ「どこ行くんだ?」
キリ「授業に戻る」
シカ「今さら行ったってイルカ先生に怒られるだけだぜ」
どうせ怒られるなら次の授業までこうしてても一緒だ。と、眠そうにあくびをする。今にも眠りそうなシカマルを、そよそよと風がなでて、とても気持ち良さそうに見えた。
少し悩んで、もう一度座れば、隣から笑い声が聞こえる。
キリ「……何」
シカ「なんでもねー」
久しぶりに見上げた空は、どこまでも綺麗だった。
………………………
ーー空を見上げる二人ーー
キリ「あ…」
シカ「どうした?」
キリ「…あの雲、最初は花形だった。今は猫」
シカ「へー、どれだよ?」
キリ「ほら、あそこの…」