第37章 長所と短所
そして、戸を開けようとシカクの伸ばした手がドアに届く前に、それは勢いよく開かれた。
シカク「!!」
そこには、どこから聞きつけたのか、それとも気配を感じとったのかはわからないが、二階にいたはずのシカマルの姿があった。
キリ不在で、いつもよりも五割り増しで、だらだらと気だるそうにしていた息子のこの素早い行動に、シカクについ苦笑いがこぼれる。
シカク「ちょうどいい。シカマル、母ちゃん呼んで来てく……っとぉ」
トン、とシカマルを横に押しやり、シカクも半身をひねってソレを避ける。
そのシカクとシカマルの間を抜けて飛んで行った訓練用のクナイ。
くるりとシカクが前を向けば、目の前には小刀を手に、向かい来るイチカの姿があった。
小刀を避けた事で、ひゅんっとそれは腹の横で空を切ったかと思えば、即座にイチカは返し刃でシカクの背中を狙う。
イチカの右手を掴めば、今度は死角に隠し持っていたらしい、左手に握られた小刀がシカクを襲った。
イチカ「!」
その小刀をスッと指で挟んで止めてやれば、イチカは瞬時に小刀を手放して、シカクの腹に蹴りを放つ。
イチカ「きゃあっ!?」
無理な体勢から放った渾身の蹴りが空振りに終わったことで、バランスを崩したイチカを、シカクはふわりと抱き上げた。
シカク「たいしたもんだ」
イチカを地面に降ろしながら、「特に、あそこですぐに刀を手放した判断は良い手だった」と、シカクはにっと口角を上げた。
ハッとしてイチカが下を見ると、太腿にあるホルスターにキチンとしまわれている自らの小刀。
いつの間にシカクから返されていたのか、全く気が付かなかった。
キリ「イチカ! どうしてこんなっ」
慌てるキリとは対照的に、シカクは悪戯な笑みを浮かべた。
シカク「で、どうだ? イチカちゃん、俺は合格だったか?」