第36章 決別
イチカ(本当はキリを連れて帰りたいけど……今は……)
樹の里ではまだまだ、あの事件の悲しみを乗り越えられていない者がいる。
キリに、良くない思いを募らせている者もいるのだ。
ここでも、キリを良く思っていない人が少なくないようだが、それでも故郷の仲間達から悪意を向けられるよりは何倍もマシだろう。
イチカ(それに……)
気に食わないが、この男のおかげでキリときちんと話し合う事が出来たのも事実。
イチカ(キリ本人も、この男を警戒してる様子はなかったし)
ならば、キリは今は木ノ葉隠れにとどまるべきだ。
イチカ(樹の里で……調べたい事もあるしね)
イチカには、樹の里でキリのために、イチカにしか出来ない事がある。
イチカ「ねぇ」
シカ「なんだよ?」
また拳が飛んでくるのでは、と身構えたシカマルに、イチカは深く頭を下げた。
イチカ「キリの事……お願いします」
シカ「!!」
イチカが頭を下げたままでいると、あー……っと頭上から声が聞こえる。
シカ「言われなくても、そのつもりだっての」
照れ隠しにぽりぽりと頬をかくシカマルを見て、イチカは口角を上げる。
イチカ「まあ、次に私が来た時には、あんたじゃなくて他の男がキリの隣にいるかもしれないけどね」
シカ「っ!」
イチカ「樹の里でもキリは大人気だったからねー。ぐずぐずしてたら知らないわよ」
「……んなこた分かってる」と、そっぽを向いて顔をしかめたシカマルに、イチカは笑い声を上げた。
キリの相手には少し頼りない男ではあるが……もし他に、キリに好意を寄せる男が現れたら。
とりあえず、この男を親友の力の限りで応援してやろうではないか。