第36章 決別
イチカ「ねぇ、ちょっと」
シカ「なんだよ……!! っぶねぇー」
呼ばれてイチカの方を向けば、突然目の前に現れた拳をシカマルは慌てて避ける。
シカ「そう何度もやられてたまるかっての」
伊達にいつもキリ、シカク、アスマからしごかれているわけではないのだ。
二度も三度も容易く殴られてやるものか。
イチカ「ふーん? ……よっ、と」
一発、二発、と続けて飛んでくるイチカの拳を避けていれば、ふいに足元をすくわれて、シカマルは尻もちをついた。
シカ「いっ、てぇー……」
痛めた尻をさすりながら、シカマルは立ち上がる。
シカ「くそ、早え」
シカマルの悪態混じりの賞賛に、イチカはふっと笑みをこぼした。
イチカ「樹の里で、大人を除けばキリは一番強かった。二番手は私よ」
シカ「げっ、マジかよ……」
イチカ「大マジよ」
イチカは一つゆっくりと息をついた。
小さな頃から一緒にいたキリ。
それは物心つく前から始まっていた。
どんどん先へ先へと止まることなく強くなっていく親友に、置いていかれないように、キリの隣に胸を張って並んでいたくて。
毎日必死で、強くなったのだ。
イチカ(それをこの男が……ね)
いまだに尻をさすっているシカマルを見ていると、キリの隣に立つには少々実力不足かもしれないが……。
キリを前にした時の態度。
イチカの時とは違う柔らかい声色から、シカマルがどれだけキリを大切に思っているかは充分に見てとれる。