第36章 決別
薬物投与でのキャパオーバー。
イチカはキリ以外でも、その姿を見た事がある。
その子はキリのように、殺人衝動があったわけではない。けれど普段は大人しく可愛らしい子なのに、奇声を上げて暴れまわっていたのを見て、戦慄した事をよく覚えている。
だからこそ、キリに非は無いのだとわかっていたが……どうして、何故、自分の家族を、里のみんなを、そんな考えが頭の中から離れなかった。
ぐるぐるとずっとそんな事を考えていたら、周囲の不穏な声がやたらと耳にうるさくて。
キリほどの実力があり、薬物耐性の強い者がが今更、薬に耐えられないなんてことがあるのかと。
もしかしたら、キリはわざとそうしたのではないのか。そんな有りもしない発言は、心の片隅で巣食っていった。
そんな負の連鎖を繰り返して、イチカがこの里に来れるまで、半年を優に超える月日が流れていた。
また、ぽたぽたとイチカの瞳からは涙が溢れた。
イチカ「キリがどんな気持ちでいるのかなんて、わかるのに……ごめん」
あの日の事で、一番苦しんでいるのはキリなのだと、そう思えるまでにこんなにも時間を要して、自分のことばかりに必死だった駄目な親友でごめん。
イチカ「会いに来るの、遅、くて、ごめっ……んね……っ」