第36章 決別
イチカ「……ひっく……っ……」
少し経って、イチカの涙も落ち着いてきた頃には、キリの袖はびしょ濡れになっていた。
そして、きっと今泣き腫らして、とてつもなく不細工になっているだろう顔をキリは心配そうに覗き込んでくる。
イチカはきゅっとこぶしを握って、一度キリの心臓の上を叩いた。
キリ「!」
イチカ「私、キリのこと殺そうとした」
キリ「……うん」
イチカ「今、私キリのこと殺したわ」
キリ「……??」
殺した、とそう言われてもまだ生きているキリは少し不思議そうに首を傾げた。
イチカ「あの日のキリを、殺したわ」
キリ「……!」
イチカ「だから……みんなを傷付けたキリは、もういない」
キリ「なっ、そんなこと」
許されるわけがない、と続けようとしたその言葉はイチカの叫びにかき消された。
イチカ「私が、あんたをっ! 嫌いになるわけないでしょ!!!」
キリ「イチカ……?」
イチカ「ずっと、一緒にいたんだから! キリの事を誰よりも知ってるのは私なんだからねっ!!」
そう。誰よりも、そばにいた。
キリの優しさを、キリの良いところを誰よりも近くで見て来たのだ。
ふるふると、キリの胸の上にあるイチカの手が震える。
イチカ「でも……でも、お父さんと、お兄ちゃんの事も、大好きだったの」
大好きだった親友を嫌いになんてなれなかった。
でも、愛する家族を失った悲しみも深くて、どうしようもなく辛かった。