第36章 決別
一歩、二歩と足を踏み出せば、こちらに気がついたキリは顔を上げた。
キリ「……今まで何を?」
表情一つ変えず、抑揚のない声が響く。
『まあ、ちょっとな』
キリ「……?」
少し怪訝な表情を浮かべたキリに、肝を冷やしつつ、イチカは頭の中で考えていた話題を口にする。
『あーさっきの続きなんだけどよ。……キリは、樹の里に戻る気はあるのか?』
シカマルはイチカに会いに来る前に、キリと樹の里の話をしていたと聞いた。
少々強引かもしれないが、ボロが出る前に色々と話を聞いておくべきだろう。
そわそわと落ち着かない気持ちのまま、キリの返事を待っていれば、キリはゆっくりと首を横に振った。
《……っ!!》
『なん、でだよ……?』
キリ「戻らない……戻れない」
『!!』
『キリ……』
キリ「樹の里の人は、凄く良い人たちばかり。悪い人なんていない」
そう言って、また……キリは俯いてしまった。
キリ「それを……私が作ってしまった」
『……作った?』
キリ「いつも優しさに溢れているようなみんなに、人を憎むほどの悲しみを、黒い気持ちを作らせた」
『……!!』
キリ「そんな気持ちを、憎む対象である私を殺すことで、少しでもみんなの気持ちが晴れるなら。今も生きてしまっている私の命は、そこで使うべきだと思った」
『木ノ葉に……未練はないのかよ。お前に良くしてくれる奴もいるだろ』
あんな凄惨な事件さえなければ、キリは誰かに嫌われるような、憎まれるような人材では絶対にない。
それにイチカが化けているこの男とは、一緒に住むような間柄ではなかったのか。
キリ「……あなたも、シカクさんも私を受け入れてくれた。三代目も、カカシさんも」