第36章 決別
なぜ里の人間に手をかけたのか、その理由を何度聞いてもキリは躊躇していたが、それでも、最後には話してくれた。
シカ(それじゃあ、キリが……っ)
それは、あまりにも…あまりにも辛すぎて、聞くに堪えないものだった。
樹の里では産まれて間もない頃から薬物を使用して、能力の向上を図っていた。
その薬物が自らの耐えられる量を超えた時、極度の興奮状態に陥ったり、あらゆる場所から血を流したり、人それぞれ何かしらの異常をきたすらしい。
キリの異常は〈殺人衝動〉だった。
シカ(キリが悪いわけじゃねぇ……っ)
キリが悪いわけではない。
キリの意思だが、キリの意思ではないのだ。
でも、キリは自ら思った感情で行動した。
それが薬物から来るものだったとしても。
シカ(くそっ……)
人に対してあんなにも優しい気遣いをするキリが……この事でどれだけ心を痛めているのか、それは想像を絶するほどだろう。
シカ(あいつが悪いわけでもねぇ)
キリだけではなく、キリの親友、イチカと呼ばれるあの女も。
誰かが悪いわけではない。
だから、だからこそやり切れない思いがシカマルの胸をしめる。
キリも、イチカも被害者なのだ。
シカ(………っ、くそっ……)
もう何度ついたかわからない悪態を胸に、シカマルは一人、駆けるスピードを上げる。
シカ「!」
ようやく探していた人物を発見して、シカマルは向きを変えてそこに近付いていく。
シカ「よぉ」
イチカ「あんたさっきの…!」
一体なにをしに来たのだと、声を低くしたイチカは、すぐに何かを探すようにあたりを見渡し始める。
シカ「キリなら居ねぇよ」
イチカ「!!」