第36章 決別
イチカ(……嘘、でしょう)
ゆでダコさながらまで赤くなった顔を隠すように右手で覆った男をイチカは呆然と見つめる。
このやり取りが、酷く受け入れ難かった。
キリが里からいなくなったあと、樹の里がどれほど凄惨としていたか。
あの日キリによって失われた17人の命は決して軽いものではなかった。
さらには、命はあったものの、以前とまた同じように暮らす事が出来ないほど深手を負ったものも少なくはなかった。
イチカの胸の奥が、ざわつき始める。
樹の里でのキリとイチカの関係は、親友と表すのが最も近いだろう。
そして、キリはあの日。
その親友であるイチカの父と兄の命も奪った。
イチカにとって、そのことがあまりにも辛過ぎて、どうしても頭が理解してくれなくて。
一人悲しみに暮れている間に、キリはいつの間にか樹の里からいなくなっていた。
しばらくして、キリが木ノ葉隠れの里にいると聞いた。
イチカがここに来るまで、どれほどの時間を要した事か。
どれほど多くの人が悲しみ、涙を流していたか……今でも鮮明にその光景が蘇る。
イチカ(その間……キリはこの男と一緒に……?)
イチカの中で、どろりとした黒いものが生まれたのがわかった。