第8章 思わぬ助け舟
だとすれば、何故。アカデミーでの彼のこれまでの態度を思い返してみても、私のことを好意的に思っているようには見えない。
むしろ、私のことを嫌っているのではなかったのか。
しかし、以前まで私に向けていた、どこか怒りのようなものが感じられない。今私にかける言葉を探している彼から、負の感情は読み取れなかった。
意図がわからず、彼を見つめていれば、ぱちりと目が合った。
キリ「………どうも」
彼が何を考えているのかはわからないが。私が集団攻撃にあっているのを知りつつ、イルカを呼ぶでもなく割って入るでもなく、最善の方法で彼はやってきた。
結果、私は殴られることもなく、話が大きくなることもなく、場は収まったのだ。
キリの端的過ぎる礼に、シカマルは驚いたあと少し笑った。
シカ「…どういたしまして」
そう言って笑った彼の顔には、やはりこの間までの雰囲気が感じられない。
チョウ「あっ、シカマル。もう少しで授業始まるよ」
もうそんなに時間が経っていたのか。随分と長い間ここにいたものである。彼女たちもお昼も食べずになんとも執拗なことだ。
教室へ戻ろうと足を進めれば、目の前の男にそれを阻まれる。
シカ「あー、ちょっと待て」
これ以上なんだと疑問に思っていれば、ふいに右手が掴まれた。
シカ「話があんだよ。付いてきてくれ」
教室とは逆方向に足を進めるシカマルに、チョウジが「僕は先に教室行ってるね」と笑いかけて、戻っていった。
キリ(待って、私も授業に…)
そんな思いとは裏腹に、シカマルに手を引かれ、彼はずんずんと歩を進めていく。
…………………………
ーーそれぞれの心情ーー
シカ(やっと捕まえた。もう逃がさねー)
チョウ(頑張れシカマルー)
キリ(何、どういう状況?)