第35章 35話 重たい犠牲
キリを拾ってくれたカカシや三代目。
穏やかな時間をくれた奈良家のみんな。他にもキリに優しくしてくれた人がいる。
その人たちに、貰ってばかりで何も返せぬまま終えるのは不義理に感じて、心苦しいけれど。
それでも。
キリ(どうしてこんな……)
黒い正装で身を包んだ人々が、葬儀場の近くで集まる。
一体どれだけの人が今、悲しんでいるのだろうか。
だが、キリ一人死んだところで悲しむ者はそういないだろう。
キリ(………)
もしかすると、キリが恩を返したいと思っている人達は悲しんでくれるかもしれないが。
それでも、フミとその比率を考えれば、どちらがそうなるべきだったかなんて明白だ。
長く生きなければ良かった。
ここでの生活を、どこかで心地良く思っていた部分もあった。
あたたかさや、幸せを感じてしまう事もあった。
キリ(この時間が……もっと続けばいいのになんて……)
いつからかーー自らが樹の里でした事も顧みずに、そんな事を願ってしまっていた。
今回の事は全て、自分への甘さが招いたことだ。
ぐっと力を込めた事で、爪が手のひらにめり込んで、血がじわりと溢れ出る。
次から次へと溢れてとまることのない後悔。
どれほど願っても戻ってこない時間と……フミの命に、キリは声を上げて叫びそうになるのを堪える。
キリ(もう、やめよう)